以下、完全にネタバレ。
ネットで調べると、この書のトリックの評価は分かれている。私は不満な方。文章もまずい。ただ、途中までは心理サスペンスの盛り上がりが良い。
本や映画のミステリーを読んだり見たりしつつ、作者(監督)はどういう構成をして読者(観客)を騙すだろうか、という視点を持ちつつトリックを私は考える。
この倒錯のロンドは、叙述トリックに慣れている人なら驚きは少ないはず。
「白鳥が盗作をした」という内容の地の文が無いため、白鳥は盗作をしていないんじゃないか、とまず想像できた。となると、山本は狂気にとりつかれていることになるな。
小説内小説はどこまでだろう、と最初の頁から考えて読み始める。結局、「第三部 倒錯の盗作 五 最後の倒錯」の章(文庫p307〜)で、プロローグ(あるいはプロローグだけは除いて、第一部)からこの章の直前までが、「白鳥が事実に基づいて書いた小説」ということが分かる。読み進める中、ここら辺で私も混乱してしまったが、後でよく考えると理解できる。けれども、作中作はトリックとはあまり関係ないな。
立花広美が殺されたあたりで、謎の3人目が殺したんじゃないか、と分かってくる。で、本の前の方のページを改めてざっとみると、永島がいるな。白鳥と永島とは違うという可能性があるな、と思う。白鳥は実は本当に小説家で盗作をしていないというトリックのようだしな。
以上のことは、おおむね当たった。もちろん、その他いろいろなトリックの可能性を考えつつ読んでいるわけだが。ただ、この書のトリックである、山本が正気から狂気に途中で変わるとか、第20回の応募要項を見て第21回の新人賞に応募するとか、山本が白鳥の「幻の女」を原稿用紙に書き写したとか、そういうことはどうでもよろし。山本の手記は事実もあるけど山本の狂気もあるので、山本の手記から何かを見抜けというのは無理。犯人の手記であっても嘘は無し、というが叙述トリックの前提だと思うが、この山本の手記は嘘がある。(作者は違うと言うかもしれないが)「『幻の女』の執筆は想像以上にはかどった」(文庫p39)という、山本の手記の文の「執筆」は嘘だろう、やっぱり。
この作品、叙述トリックが成り立っている部分もあるし、成立しているように見えて実は成り立っていない部分もある。駄作でも無いが傑作でも無い、というのが私の評価。ただ、叙述トリックが破綻しているのだから推理小説としては失敗作と言っても良い。
面白かった部分もあるけど不満なところもあるので、以上のレビュー、思わぬ長文になってしまった。
参考:推理小説の原理を詳細に考察。納得な話。
推理小説のエッセンス 第3回