だるま屋少女歌劇

1936年(昭和11)6月:少女歌劇タイムス

◎DSK總評 京阪寶塚會員百三三

長らく故鄕を離れ 五年ぶりにDSKを觀ました時 全てが少女歌劇らしくなつた事に驚きました

然しまだまだ未完成なものです やつと一年生になつた位のものと思はれます 舞台裝置はあれで良いものとしても スポツトライトの御粗末には困ります 此の劇場に廻り舞台なきは レビユーの價値を半して居ります ドロツプのカツトも良き出來です オーケストラもあれで滿足せねばなりますまい

問題はスポツトと生徒達にあります スポツトはもつと彩色を細かにし レビユーらしく スピードを加へなければなりません このまゝでは折角のストリーも舞台裝置も生徒達の名演技(?)も スポツトの爲にレビユー効果を上げる事は出來ますまい スポツトの諸子良く究の程を 寶塚の良さを學び給へ 生徒達の演技も未だ完成の域に達したものは一人もありません事は情ない事です これは振付師の責任も多大です 各生徒の個性を生かし使ふといふ事も忘れて居られるものと存じます 其の点寶塚の白井鐡造先生に學ばねばならぬ所多大です 二三の生徒をのけて他の人はもつともつと究する餘地多大です 勿論一回位で そう全てのものが解るものではありませんが 歌劇は五ヶ年間一月もかゝさず 寶塚へ行つた小生故 それ相當の事は解る事と存じます故 こうおこがましく申す次第です

先ず泉澄子君は三枚目として將來を約束出來る人でせう 寶塚の園井惠子位になる素質を持つて居ります しつかりなさい 二枚目として日野綾子をうんと使つて見る必要がある 演技もそう惡くなささうだし男役としてのスタイルも良く 台詞ももう少し落付きを出せば 二枚目としてDSKを救ふ事が出來ませう DSKの葦原 小夜と言はれるやう勉し給へ メーキアツプも良く出來て居ります ターキーの踊り葦原の演技歌をこの人に付けてやりたいです 演出家もその点大に注意して彼女の爲に出來る丈便宜を計り給へ

もう一人の夕月照子 この人の顏は オリエ津坂と葦原を合はせた樣な顏ですね もう少し丈が大きければと思ひます 然しこの人も日野と變つた二枚目として活躍できる人です 今の所ではまだまだですが本人の心がけ次第 演出家の指導次第です 日野を小夜ターキー型ならば 夕月は葦原オリエ型といへませう ご兩人しつかり二枚目として將來の成功をります 他の男役は 男役としての素質が少ないです

聲樂に於ては實に情ない事です 一人として滿足に歌へる人はありません もつともつと勉させるべきです 早くプリマドンナの一人位出さねば●りません 寶塚の草笛 明津位の人は出なくても 久美京子 櫻緋佐子位の歌手を出していたゞきたい 舞踊はやゝ見られますが これも良い加な踊りでなく 基本習からもつと本格的に敎へねば駄目です セニヨリークの芳野壽美子 ルンバでありながらあゝ体を固くしては駄目 勿論音樂もスローですが踊りにくそうだ 勿論歌が本位だらうが ルンバならば歌つて踊らなければならぬ 大變長くなつたが最後に脚本について 大中黑の旗風は凡そ凡作 山もなければ生徒達の熱もない オーケストラ寶塚の曲を取りました其の点感心です 良きものは必ず學ぶべきです コーラスは駄目もう一息です

昭和五人女 これはテンポもあり容も豊富故 見應へのあるものです 然しこの種のものは 少女歌劇の出し物としては考へものです この種のものには DSKは成功して居られるやうですから敢てとめません 最後にエスパニア之は駄作です もつと考へる餘地がなかつたですか 先プロローグがさびしすぎた ルンバならもつと華かな曲と踊とを取れたらうに あんなスピードのないルンバ始めてだ レビユーとしての効果を最初から破壞して居ります この位の事なら 松竹の戀のエスパニアでもやつた方が エスパニアとしての氣分が出ましただらう バレーとしての此のレビユーが裝置も一本調子で ダンスの振付も惡く ボレロにしても タンゴにしても見る所なく悲觀しました 又やたらにタンバリンをつかつて居りますが いくらスペインエスパニアと申したとて あれはいや味でした 

闘牛士のパソドル あれは良き出來でした 九塲スペインテーブルも惡くありません 松竹のタンゴローザを眞似た場面一寸いやな氣はしましたが タンゴローザも 前塲の山は此の場面でしたから取つたのでせう 勿論演技に於ては問題でありません ターキー 春野八重子 小倉みね子の意氣のあつた此の場面を思ひ出すにつけて見られなかつた 然しこちらでは 知らぬ人が多いだらうから取つたのは賢明です九場を山としてのこのバレーシヨーは實に失敗といへませう

もつとタツプにボレロ ルンバ等 本格的な踊り手の早く出る事を望みます 生徒を初め演出 振付 オーケストラ スポツト裝置の各員もつと勉して 一日も早く京阪地方 東京方面へ遠征される日を 大阪の地でまつて居ります