だるま屋少女歌劇

1934年(昭和9)9月:少女歌劇タイムス

◎七つの魂

◎トム・ソウヤー

ポリイ伯母さんは おつしやいます

「トムは それはそれは腕白で惡戯な子供です でも決して馬鹿ではありません いや利口すぎる位利口です 優しくしたのでは爲にならないし かといつてくあたれば あの子が可哀さう 本當に トムの教育は骨が折れて アヽ この胸が痛みます!」

◎旅姿 水戸黄門

—頃は元祿八年の初秋 儒水鏡老人と御變名の光圀公が 俳諧師松雪庵元起 實は越後家の大忠臣山田左膳光起なるを召しれられて 呑氣至極な旅にお出ましになる道中之といふお話もなく泊りを重ねて こゝは奥州白河の城下—

と講釋師の張扇を借りて水公の或る日の姿を お茶番風にスケツチする

喫煙室

◇三浦環女史が歸朝して 日本で歌劇(オペラ)を創めるのだと 最近の消息は傳へてゐる 西洋のオペラが 日本の國民性に融け合つて うまく發達するかどうか その昔 伊太利のローシーさんが 帝劇でさんざ苦い經驗を甞めさせられたことは百も承知の上であらうが

 『時勢が變つてゐる』

と仰有るのですか

まあ やつて見て貰つてからの事だ

◇芝居で儲けるなんてことは餘程の幸運だ 損がいかない程度であつたら 上々吉と滿足せねばならぬ 多數のブル階級を背景に持つ歌舞伎や新派でさへも 大抵そんな所だらうから 一部インテリ級にしか認められない新劇が ウダツが上らないのは尤なことだ 新しい仕事を開拓するの苦勞は そこにある

◇石の上にも三年

だるま屋少女歌劇も もう三年にならうとする 最初好事のお慰物としか認められなかつたこの劇團も どうやら今日では本格的の 若しくはそれに近い足どりにまで漕ぎつけることが出來た

どうか素直な發展をさせてやりたいものだ

◇正直にいふと この歌劇には 固定したフアンがない 一時的のは勿論あるが

よい意味でもフアンが欲しい 鞭つたり勵したり 支へたりするところの

◇新聞や雑誌で見たばかりの そして一度も芝居さへ見たことがない役にも 隱れたるフアンがあるのは不思議だ 『まだ見ぬ戀』といつたやうなのは かうした心境か

◇女の子が『まだ見ぬ戀』にあこがれて 男優に近づきたがる熱烈さは 樺太の山火事よりも烈しいとのことだ 男の子の女優に對する憧憬も 同じだらうか

思ひ思ひ

秋月小夜子

彼の女は 今朗らかだ 何の不平も不滿もなく 全くその日を感謝しつゝ送つてゐる 彼の女は朗らかだ

御船明子

私の好きなもの? ホゝ 小細工物を集めること それからチヨコレート チヨコレートはへ行く時 澤山仕入れて行きましたわ 道理で私の歌チヨコレートの香するつて ホゝ からかつちやいけませんわ

花丘美智子

赤い夕陽の春つく渚を歩いてゐた 七八つ位のオカツパさんが五六人 無心に遊んでゐる 凡そ世の中に苦勞といふものを知らぬ氣に 何て微笑ましい子供の世界でせう

芳野●美子

泣いて別れた裏山に 秋が來ましたさやさやと 今日もこぼれた松かさに しみじみと降る●時雨 少女の胸は何事にもいたみます

筑紫光子

でもね 思ふ樣にできない時は悲しくて どうしてこんな事が出來ないのかと思ふと 自分ながら情けなくなりますの 私 好きでこの道を選んだのですから どんなことがあつても舞臺の上で 私の力一杯を發揮せねばならぬと決心してゐますけれど

如月冴子

女の役つてとても六ヶ敷いのネ 私男役ばかりしてゐるので 偶々女の役がつくととてもやりにくいのよ え? キミは女ぢやないかつていふの ホヽヽヽ 私如月冴子つて申しますの どうぞよろしく

彌生伶子

一しきりの中ではしやいで居つた黑い人魚達が のこのこ砂濱へ這い上つて來ます すると眞黑な足が皆空の方へ延びます 逆立した足の間から 倒になった顏を見ると 足の色よりまだ黑いのにアツと魂消てしまひます

泉澄子

夕日はに落ち

灰色の霞せまる

星影は蒼穹(みそら)に 

あゝ 今日も暮れぬ

濱眞砂子

お伽の國のピーターパンは振出しに私の舞臺生活が始まりました 無我夢中で舞臺をふんでは 樂屋へつてホツとする 丁度一年前の此頃を思ひ返して なつかしい思出にふけつて居ります

千草麗子

どんなにふざけてゐても一旦幕が上ると私の氣持は自然に落ちついて來ます 舞臺ではもう一生懸命です でも中頃一寸だれ氣味になるのがいけないと思ひます で又氣を取り直してまつしぐらに演じます

櫻木美奈子

小鳥囀る綠の丘で

千草八千草花咲く野邊で

乙女うれしや世の罪知らず

うまし夢見て日を暮らす

霞浦子

から帰ると怖しい初舞臺が待つてゐました どんなに落付かうとしても 胸は高鳴るし 目頭が熱くなつて 開幕のベルが地獄の獄門が開くやうな音のやうに私の耳を襲ひました

それは去年の九月

でも思ひ出すとなつかしいです

春日陽子

『なかなか表情がうまいよ』と笑ひながら言つて下さつた 賞められたのか冷かされたのか くすぐつたい氣持ちです でも うぬぼれずに悲觀せずに 懸命に勉します

越路由紀子

私達の朗かな時 それは舞臺で思ふ通りに演じられた時 基本習で汗びしよになつた後です 前の方は愉快で 後の方は壯快な氣分です

夕月照子

今日もまた うまく出來ますやうにと 神樣の前で拍手を打つ時の心は 全く純眞でございます 私は いつもこの心を舞臺の上で持ちたいと願つて居ります

舞臺よ さらば

桂木妙子

三年間の舞臺生活と 涙の別をしました私 今更ながら フツトライトがなつかしいです

狭まぐるしい樂屋もなつかしいです

物皆 思ひ出の種です

未熟な私を 長々御ひいきにして頂きましたお客樣へ厚く厚く御禮申上げます

それから お世話になつた歌劇部の皆さんへも

おゝ 永久に忘れることの出來ない舞臺よ

海邊ナンセンス

○空も朗らか も朗らか 彼女達も朗らか 和田は時ならぬ歡樂鄕と化した

○元來が 喰ふことにかけては偉大な天分を持つた彼女達 あの小さい体でシユウマイ九つペロリと平げたのは誰? 書かれると困るので 人知れず手を出して十一貪つたのは誰? 知つてる人手をあげなさい

○午飯を終るとキツト寢ることにきめ ネコと仇名を貰つたのは にのある彼女です

○黑くなつた競爭で一等當選のM子 すると傍から異議の申立がある

曰く 生れ付ぢやモン アカン

○食つて食つて狸のやうな腹になるとレコードをかける 但し藝熱心なと感心しては困る 実は腹へらしにやるダンスだから

○又食ふことを書くが『御飯をオンボラーとよそつて頂戴』なんて少女の口から平氣でやつてのけるのですから 見上げたものです

○あまり素破拔くと 祟が怖いから これで止めます (報告係)