若王子(にゃくおうじ)

ファンもいましたが、閉店。

異界です。
ガイドブックを信用してはいけない典型となる例です。

その日、私はガイドブックにあったこの喫茶店へやってきました。俳優の栗塚旭さんが集めたものがある、等と書かれていたはずです。なかなか良さそうな外観です。しかし、階段を降りてからすぐに気付くべきでした、、、、。ここは、違う、と。
入り口に行くまでに、ごみの山?、が脇の建物の中に連なっていました。何故、この時点で警戒心を抱かなかったのか分かりません。普通の僕なら判りそうなものなのに。ここに足を踏み入れた僕はすでに、現実とは違う空間と時とにあるこの喫茶店の空気に染まっていたのかもしれません。
もし日常とは決定的に違う体験を望むなら、コーヒーと必ずついてくるクッキーをここでいただくことがその願いを満たすことになるでしょう。様々なオブジェ、いや、私にはがらくたとしか見えなかったもの、いいえ、がらくたでも言い過ぎです、ゴミが、入り口から部屋の奥の奥まで文字どおりうず高く積まれていました。怪し気なステンドグラスから入る光、黒い猫、不思議な時間がその場に流れています。観光客と思しき一団が、怪訝な、いや不安気な様子で座っていたのを思い出します。
やはり、はるか昔一度訪れたきりなので、正確には記すことができません。「詳細に思い出をたどってゆくにつれ、それが現実のものか夢のなかのものかわからなくなって、思わず自分に問い返してしまう」(『薔薇の名前』上巻 p.15)。思い出そうとすればする程、もう一度この異形の空間を訪問することになる自分を想像することができます。

京都市左京区若王子町5-2
10:00-18:00 無休